ハヤシライスで世界を救え!! 盛り付け
☆美味しい食事の代償は圧倒的な敗北感であった……
「あの味を越すことができると思うか?」
店長は言った。
「いや、今の俺じゃとてもじゃないけど無理です」
僕は言う。
中村屋のハヤシライス。まさかレトルトのハヤシライスがここまで美味しいとは思わなかった。
コクがありまろやかでそれでいてしつこくない。
「いや、あんたたちバカでしょ?」
カフェのアルバイトスタッフの女性だ。
「何も中村屋と競う必要ないでしょ。むしろ同じハヤシライスを世に広める身として同志でもあるじゃない」
「そういうことではないのだ」
と、店長。
「ああ、そうだ。男には引けないときってもんがあんのよ」
と、僕。
「俺は俺のハヤシライスを世の中に広めたいんだ!」
店長は拳を握り立ち上がり高らかに宣言した。
「それは自己顕示欲っていうんですよ〜」
目が笑っていない微笑みで女性が語りかける。
「ったく。もっと肩の力を抜いていけばいいのに。ハヤシライスを広めることと例の女性に美味しいと言わせることが目的でしょ? だったら他と競わなくても自分たちのオリジナルなハヤシライスを作ればいいじゃない」
やれやれと言わんばかりの女性。
「自分たちの……」
「オリジナリティ……?」
「そうよ。あんたたちが美味しいって思うハヤシライスを作ればいいのよ。常識的なハヤシライスから外れない限りね」
そうか。そうだったのか。
「俺たちは大事なものを見失っていた」
「ああ、どうやらそのようだ」
オリジナリティ。料理人があくなき求めるもの。ハヤシライス探求道もそこに通ずる。
「今までの日々を振り返るのよ。あなたたちならもうきっとできるわ」
俺たちの……。
「ハヤシライスってやつか」