空の上での七並べ

いがもっちの意外かも

第1章 穴があったら差し込みたい

 ある日の四限目の理科の授業であった。その日は実験の日であった。

 俺の隣の席はA村だ。

 このA村はどこぞの木こりでその筋肉を鍛えてきたんだという上腕二頭筋者であり後ろのV字の刈り上げが特徴的だ。

 そんな彼は野球部でありその有り余ったエネルギーをときたまあらぬ方向へと発散していく。

 そんなA村はカバーガラスを挟むためのピンセットを持って俺の方を向き、

「おい、治、見てろよ」

 と、言い放つとピンセットを下方にあるコンセントにぶっ刺した。

 A村は感電した。

 古来より穴があったら塞ぎたがるというのが男の性であろう。

 A村は本能に赴くままに行動したのだから仕方がないという弁解も立つ。

 だがしかしだ。

 ステンレス製のピンセットでコンセントの穴を塞げばどうなるかなど少し頭をひねれば「あっなんかこれやばい」とそれこそ本能で察知することができる。

 危機回避能力を持つ人間がこのような行動をとるとは神様もびっくり、完全なイージーエラーである。

 A村は椅子から倒れ陸に揚げられたアジのようにピクピクしている。

「おい、なんしょんな。救急車呼ぶぞ」

 と、理科の先生はいち早く最適解を叩き出した。

 スーパーコンピューター「京」のように。

「おい、大丈夫かよA村。大丈夫かよA村」

 と、言いながらA村に近寄ったのは日本国民における第一の苗字とも呼び声が高いS藤である。

 思えばS藤はA村と小さい頃から同じアパートで拡大解釈をすれば一つ屋根の下で暮らしてきて仲が良かった。

 親友を助けようと勇む姿はまさに『走れメロス』を回顧させた。だが、

「ぎゃー!」

 S藤は感電した。

 砂糖は電気を通さないらしいが、同じ砂糖でも3分の2が水分でできた「S藤水」はどうやら電気を通すらしい。

 「なぜ今ベストを尽くさないのか」が格言のさ……S藤は有言実行、まさに格言通りの生き様を皆に見せつけその短い人生を全うした。

 二つの横たわった体からはぷすぷすと煙が出ている。

 ふと七輪で魚を食べたい気分に駆られてきた。

 そう言えば最近は燻製品もあまり食べていないな。

 二つの焼き魚を見てふと思い出す。

「なんなのよ、これ、いやー!」

 叫びながらN浦はその場から逃げ去ろうとした。

 これをなんていうかわかるだろうか。

 フラグである。

 二つの死体を見た後に女学生が叫びながら立ち去ろうとする。

 死亡フラグである。

「待て! N浦」

 そうはいっても便宜上俺はここで彼女を止めようと努力は試みた。

 しかし、もはやこれは彼女をより一層死亡へと近づける第二のフラグであったことに言ったあと気がつき、俺はまさに確信犯。

 人間失格である。

 椅子に引っかかったN浦はA村の上にまさにおちんとす。

 彼女はその走馬灯で一体、何を思ったのだろうか。

 初めて自転車に乗った記憶。

 絵画コンクールで入賞して親に褒められた記憶。

 帰るのが遅くなって家から締め出されて親と喧嘩しプチ家出をした記憶。

 自動販売機の下で小銭が落ちていないか探していたらお巡りさんがやってきて哀れんで声をかけてくれた記憶。

 他にも、勉強、遊び、スポーツ、運動会、遠足、日経平均株価、ダウ平均株価などなどエトセトラ。

「きゃー!」

 N浦も感電した。

 思えば、N浦は正義感溢れる女子であった。

 ただの砂糖水の撹拌実験で三つの感電死体が出来上がると開始直前に誰が予測できただろうか。

 三分クッキングもびっくりの展開である。

 ここで一句。

 

『五月雨や 感電死体が 三つかな』 芥川治

 

 彼、彼女ら三人が体を張ったおかげでそれ以降コンセントの穴は使用時以外、塞がれることになった。

 (しかしA村お前は除く)