空の上での七並べ

いがもっちの意外かも

ハヤシライスで世界を救え!! 調理中

「やはりベースを根本的に変える必要があるな」

「デミグラスソースを使えばいいんじゃない? やはりもっと味を濃くする必要がある」

「それだ! トマトベースではなくデミベースにすることで酸味を抑えコクのある味を出すことができる」

「牛肉を炒める時はバターを付け加えないか? そうすればもっとコクが出ることだろう」

「バター醤油が最強だね。ってかもうこれと米出せば一品出せるんじゃね?」

「よしそうと決まれば実際に調理だ!」

「落ち着け。改善案は1つ1つ試していこう。対照実験の要領だ。そうしなければ何がいいかがわからない」

 昼も夜も。

 僕たちは雨にも負けずハヤシライスを作った。

 こうでもないああでもないと日々試行錯誤を重ねる。

 あまりに食べ過ぎてハヤシライスが夢にまで出てくるようになった。

 しかし、彼女に美味しいと言わせるまでハヤシライス作りは終えることができない。

 それにこのままだとまたハヤシライスは脚光をあびることなくカレーの陰に隠れ続けることになる。

 当時の二人を動かしていたもの。

 それは己のプライド以外のなにものでもなかった。

 そんな僕たちにも限界はきた。

 ある日いつものようにハヤシライスを作って試食することになった。

 その時ハヤシライスを食べる店長のスプーンの手が止まる。

「どうしました?」

 僕はクマができているであろう目で店長を見て言った。

「肝心なことに気づいた。ハヤシライスってそもそもどんな味だったっけ?」

 店長の一言で僕は目の前のハヤシライスが盛られた皿を見つめる。

 しまった。僕は愕然とした。

 美味しいものを作ろうとするあまり美味しいハヤシライスを作るという観点がこぼれ落ちていた。つまり「ハヤシライスを作る」という意識よりも「美味しく作ろう」という意識が先行していたため、できた料理が果たしてハヤシライスなのかどうかという観点が完全に抜け落ちていた。

 僕たちはハヤシライスを作っているのだ。

 たとえ出来上がったものが美味しかったとしても顧客がそれをハヤシライスと認めなければそれはハヤシライスではないのだ。

「なんという失態だ」

 灯台下暗しとはまさにこのこと。僕たちは大切なものを見失ってしまっていた。

「急いでハヤシライスとはどんな食べ物だったのかを思い出すんだ」

 店長に頷き僕たちはスーパーのレトルト食品売り場を目指すのだった。