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空の上での七並べ

いがもっちの意外かも

世界一不幸決定戦 中編

「なんなんだここは。どうして僕はここにいる。僕はなんで死んだんだ。僕はいったい誰なんだ?」

 その男は呟く。

 男は記憶がなかった。気づいたら会場の控え室にいて「世界一不幸決定戦」の概要の説明を受けることになっていた。

 自分が何人で何語を話していたのかはわからないが、死後の世界なためか、ここでは言葉が統一されて意思疎通を取ることはできる。

 リヨンとエリーザの独白でこの大会の勝手はだいたいわかったが、未だに自分の記憶を取り戻すことができていない。自分が最後の番だというのがせめてもの救いでそれまでに記憶を取り戻すことができるかどうかが鍵だった。

「エントリーNo.3、ロドリゴです!」

 司会の先行(サキユキ)がアナウンスする。

 男は思考を一時中断しロドリゴの話を聞くことにした。

〜〜ロドリゴの独白〜〜

 なんだ。俺はリヨンやエリーザみたいな恋沙汰は人生において一度もなかった。だから、彼らがどれだけ不幸だったか、またどれだけ幸せだったのか俺にはわからない。正直言えばどうして俺がここに呼ばれたのかわからない。俺は自分が不幸なのかどうかもわからないからだ。それでも「あなたのありのままの人生を語ってください」と頼まれたから語るとする。少しの間、俺の人生談に付き合ってくれ。俺は戦場で傭兵として育ってきた。物心ついた時にはすでにライフル片手に大人・子ども関係なく殺したりしてた。そうすりゃあ、俺を育ててくれていた周りの大人たちが喜んでくれるからだ。そんなわけで俺は武器の使い方、対人の格闘術、サバイバル技術といったことを教えられて育ってきた。そんな俺の価値観が変わる出来事があった。ありゃ、14、5歳くらいのときかな。とある村に用事があるってんで大人たちについていく。そこで俺は初めて俺と同い年くらいの奴らと喋って「学校」ってもんの存在を知った。思えばそんとき俺も学校に行かせてくれって頼み込めば人生違ったのかもしんねーな。けど、当時はあまりに価値観が違いすぎてそいつらとどう接していいかわかんなかった。ただ楽しそうにしているあいつらが印象的だった。その後も戦場で俺は人を殺し続けていった。成人とやらを迎えても傭兵組織での生活は変わらなかった。そしてあの日を迎えた。大規模な抗争ってんで傭兵組織のほぼ全員が駆り出されることになった依頼。その代わりこの任務を遂行すれば数年間は戦わなくていいくらいのお金が入るとのことだった。大きな山で組織内のメンバーも気合が入っていた。指示された場所へ出向く俺たち組織。しかしその場所に行っても誰もいねぇ。場所間違えたのかなってなった瞬間、一斉に射撃や爆撃が俺たちを飲み込んだ。罠だったんだ。敵の戦力をはかるために俺たちは実験台として駆り出されたんだって、近くのやつが言ってたな。四方八方完全に取り囲まれなす術もなく俺たちはやられた。最後どうなったかはしんねーが気づいたら俺はここにいた。これが俺の人生だ。つまらなく、そしてそんな不幸でもねぇ俺の話に付き合わせちまって悪かったな。

〜〜ロドリゴの独白終了〜〜

 一瞬の静寂の後、パラパラと拍手が聞こえ、ついでスタンディングオベーションが起こる。ロドリゴはどうした、どうしたという様子だ。

「いやはや彼の人生もまた不幸。何が一番、不幸かというと客観的に見れば不幸な人生にもかかわらずロドリゴ自身がその不幸に気づいていないことなのかもしれません。殺し、殺されが当たり前の世界で育ってきたロドリゴは私たちからすればすっごく不幸な人生です。しかし彼自身は当たり前なのだからそれに気付かない。彼の人生からは普通の生活というものがいかに幸せかということを教わることができます」

 先行(サキユキ)はロドリゴに握手を求める。

「なんか難しいことはよくわかんねーが、役に立ったってんなら何よりだ」

 と、ロドリゴは笑顔で先行の握手に答えた。

 永遠の幸せを目前にしたところでの恋人との死別。好きだった男に裏切られ自分の命と姉を奪われた人生。普通の幸せを知ることなく戦場で育ち死んだ男。

 その人たちのような不幸が僕の身にあったのだろうか。

 男の記憶は忘却したままだ。

 けど、何かが思い出せそうな気がするんだけど……。

「ついに終盤を迎えた459回、世界一不幸決定戦。消化していく暇も与えません。続きましてエントリーNo.4、マコトです!」

 マコトは幼児だ。ついつい、「そんなのありか!?」と突っ込みたくなる。

〜〜マコトの独白〜〜

 みんな幸せじゃないか。僕なんて人生がどんなものかわかる前に死んじゃった。物心すらついていなかったもの。どうやって死んだのかもわかんないし。一つも記憶がない。幸せとか不幸とかっていう概念を知る前に死んじゃった。こんなのあまりに不平等すぎるじゃないか。

〜〜マコトの独白終了〜〜

 不謹慎だが会場は笑いに包まれる。

「その通りだ〜!」という声もちらほらと聞こえてくる。

「確かに! 確かにこれは最も不幸なことなのかもしれません。何にも経験せず何にもわかることなく死んでいく。それはもはや生まれなかったに等しい。生まれて物心つく前に死んでしまう。これぞ最も不幸なことなのかもしれません!」

 会場がどわーと湧く。

 先行の盛り上げが上手なこともあり今日一番の盛り上がりを見せる。

 ーー記憶がない?

 男はひっかかていた。

 ーー僕と一緒だ。何か何か思い出せそうな気がする。

 しかしもうすぐ自分の出番だという焦りも相まってかなかなか思い出せない。

「さぁさぁさぁさぁ! 会場が最高潮の盛り上がりを見せる中、次はいよいよラスト! トリにふさわしいその話題を披露してくれ!」

 ーー僕は、僕は、僕は。

「エーーーーーンントーリーーーNo.5!」

 ーー誰だ誰だ誰だ。僕はいったい。

 そうして僕の名前がコールされる。

 ーー誰なんだ?