空の上での七並べ

いがもっちの意外かも

若者が出逢っておきたい100の物語 Reserve.st

Track5 SAKECELLAR

彼女と出会ったのは彼女が働く酒蔵会社に行ったときのことだった。

清酒がほのかに香る酒蔵にたまたま顔を覗かせると彼女が受付をやっていた。

薔薇のように美しさと強さを兼ね備えた大人の女性。

それが僕の彼女に対する第一印象だった。

彼女は僕よりもふた回りは離れていた。

僕の内心を読むかのように彼女は僕をアルバイトに誘ってくれた。

2日間のアルバイトが終わって打ち上げが開かれた。

「ちゃんと飲んで食べてる? 今回はありがとう。また来年もよろしくね」

と、女性は声をかけてくれた。

最初からわかっていた。

彼女は僕にはふさわしくないんだろうって。

年齢はもちろんおそらく僕のことを一人の大学生としか見ていないんだろうって。

だから僕は彼女に何も声をかけることができなかった。

ダメでもいいから自分の気持ちを素直に伝えればよかった。

今になって後悔する。

 

Track6 A MAIL FROM HER

その時の俺は誰かに俺自身のことを知って欲しかった。

認めて欲しかった。

高校3年生の夏。

体育祭実行委員に選ばれた俺は仕事をやっていた。

母親も亡くなり部活もなくなり、そんときは自暴自棄になっていた。

昼夜を問わず体育祭の準備に明け暮れていた。

受験生でもあるのだが正直勉強なんてどうでもよかった。

ただ目的を見失った俺は何かを必死に探し求めていた。

競技のリレーで走ったあとあまりに気持ち悪くなってトイレに行って昼に食べた中身を吐き出す俺。

そして俺はトイレの中で嗤った。

俺自身を。

自分なんて壊れてしまえばいい。

本気でそう考えていた。

そっちの方が救われる。気持ちがいい。

行き帰りの電車では電池が切れたかのようにぼぉうっとすることが多かった。

本を読むでも勉強するでも寝るわけでもなく無気力にただそこに存在しているかのように座席に座っていた。

そんなある日の帰りの電車で同級生の子からメールが来た。

「あんまり無茶しているとお母さんのように倒れてしまいますよ」

すっと気持ちが楽になると同時に俺は余計にどうしたらいいかがわからなくなった。

彼女の心配ですら鬱陶しいと思ってしまった俺はなんて酷い男なんだ。

救いの手はそこにあるのに幸せになろうとしない自分がいる。

鳥籠の底でへたり込んで外の世界を見上げるだけで一生を終える。

そんな自分がいることに気づいた。