空の上での七並べ

いがもっちの意外かも

若者が出逢っておきたい100の物語 Reserve.st

Track3 THAT MAN

その男とはじめて出会ったのは図書館だった。

図書館で執筆活動をしていると傍目にその男が見えた。

若者のように派手な格好をしているのでも芸能人のようにオーラがあるわけでも教授のように厳かな雰囲気があるわけでもない。

だが忘れにくい容貌をしていた。

あれがオーラなのかな?

その男は小林秀雄を読んでいました。

声をかけることは到底できなかった。

その男と次に出会ったのは銭湯だった。

一目見て図書館で小林秀雄を読んでいた人だとわかった。

彼はそこでも独りだった。

その後も街中やカフェでその男を見つけたのだがいずれも気にはなったが声をかけることができないでいた。

市の祭りに出かけた時。「また会えるかな」と期待して行ったのだが、やはりその男はいた。

石段のところで座っていた。

僕は意を決して話しかけることにした。

「すいません」

僕は今まで色んなところで見かけたことを話した。

「これはこれはお恥ずかしいですな」

男は照れながら言った。

どうしていつも独りでいるのですか?と訊ねると、

「孤独で思想に耽りたいのです。山奥で仙人のように籠もればいい話ですがどうしても寂しゅうございまして。群衆の中で孤独にいることが一番落ち着きます。俗世を離れることは難しいですな」

 それからというものその男と会う機会は少なくなったが見かけたときはお辞儀だけしている。

 

Track4 NOVEL ORIGIN

とある村に物静かな男が住んでいました。

男は普段は古びた茅葺小屋に住み、外で住民に会っても会釈するだけでした。

そんなわけですから村の住人たちは男を怪しんで子どもたちに近づかないように教えました。

しかし子どもという生き物は大人が止めるものにこそ興味をもつもので、ある日、子どもたちは男の家を探索しに行きました。

鍵もなく障子や木板だけで仕切られた小屋ですから簡単に忍び込むことができました。

変わったものは特になく生活に必要な最低限のものだけある簡素な家。

廊下をそろりそろりと歩くとついに男がいる部屋に辿り着きました。

男のいる部屋は薄暗く棚には本がびっしりと詰まっています。

男は机に向かって一心不乱に何かしているようでした。

とても集中しているようで子どもたちにも気付きません。

子どもたちも怖くて男に近づくことができません。

ある子どもが後ずさりした時、足を踏み外してしまい「わっ!」と大きな声を出してしまいました。

流石に男も子どもたちの方を向き、子どもたちは一目散に男の家から逃げ出しました。

もうあの小屋には近付かないようにしようと決めた子どもたちでしたが、足を踏み外した子どもは踏み外した拍子に床を壊してしまったことを気にかけ、翌日、男の家に謝りに行きました。

男は簡単に許してくれ、安心した子どもが昨日机に向かって何していたのか聞くと、机まで案内してくれた。

机には膨大な量の紙が積み重ねられていました。

「僕はね。本を作っているんだ」

男は子どもに説明した。

本って棚に置いてあるやつのこと? 子どもは質問する。

「そうだよ。紙にペンで文字を書いて物語を作っているんだ」

子どもは男が何をしているのかその時はよく分かりませんでしたが、何やら凄いことをしていることだけは察しました。

「このことは秘密にしてくれるとありがたいな」

子どもは男と約束をしました。

その後も男はどうやら小屋に篭って本を作っているみたいでした。

いつしか子どもも成人し大人になった時、その男が亡くなったということを聞きました。

結局、男はその茅葺小屋で一生を終えたのです。

住民たちで男の住んでいた小屋に行くと大量の紙が見つかりました。

男は何をしていたんだろうという話になった時、男と約束をした彼は、

”小屋に住んでいる男の伝説”

その頭文字と語尾を取り、

「この人は”小説”を作っていたのさ」

と、話をでっち上げたのでした。