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空の上での七並べ

いがもっちの意外かも

若者が出逢っておきたい100の物語 Reserve.st

 

Track1 SOLITUDE

地平の彼方まで野に咲く草々。

宙に浮いて師匠は語る。

「一つ一つの花はお互いに独立して咲くからこそ野として輝きを放つ」

所狭しと並ぶ軍隊にも似た可憐な花。

「地球に例えることができる。ヒトは独りで輝きを放てば美しい。されど成熟もせず群れを成せばその輝きを失う。それはカビの生えた林檎が樽箱の中で連鎖して腐敗するようにたちまち地球上にも癌が広がる」

たなびく白い陽炎のような風景に目を細める。

「孤高に輝く山はお互い離れて聳え立つ。元来、ヒトもそのようにあるべきなのだよ」

 

 

Track2 MOTHER TONGUE

あれは僕が大学1年生の話だ。

僕は図書館で独り必死に参考書を広げ英語の勉強を行なっていた。

対角線の向かい側に一人の初老の男性が座る。

読もうとした新聞を机の上に置き、

「英語の勉強?」

と、その男性は訊ねてきた。

「はい、そうですけど」

急に話しかけられてきて僕はドギマギする。

「君は『坊ちゃん』や『高瀬舟』を読んだことはあるのかい?」

男性はさらに続ける。

「もっと言えば『遠野物語』とか『源氏物語』、『古事記』や『日本書紀』なんか」

「いえ」

僕はそう答えざるを得なかった。

「君は自国の文化を知る前に他国の言葉を勉強するのかい?」

男が何を言わんとしたいかがわかり僕はムッとする。

「『そうはいってもしょうがない。これからの時代、英語くらい話せないと就職先もないから』とでも言いたいようだね。けど、よく考えて欲しい。外国語を話せても自分の文化を知らない人をビジネスパートナーとして選ぶかな? 君が通訳で満足だとでも言うのなら止めないけど。しかしそれでも駅前の英会話学校にでもいくべきじゃないかい?」

立て続けに僕に語り続ける男。

「日本に来ている外国人が道を訊ねてきた。君はどうする?」

「できる限り英語で道を教えますけど」

男はやれやれと首を振る。

「それ自体がもはや下僕の思考回路なのだよ」

「あなたはどうされますか?」

同じ質問を返してやる。

「僕? 僕だったらそうだね。日本語で道を教えるね。ここは日本なんだから向こうがこちらに合わせるべきだ」

男はにっと笑って、

「勉強中に悪かったね。それでも君は英語の勉強をするのかい?」

と、立ち上がって去っていった。

男が去っていった後、僕は参考書をしまって本を探しにいくのだった。