人生の空欄を埋めていく旅

勝手気ままにいきていきたい人のブログ

ハヤシライスで世界を救え!! 完成・実食

 僕は深呼吸を行う。

 今まで行なってきた数多くの試行錯誤を思い出す。そしてーー。

「よし」

 まず玉ねぎを切って炒める。

 炒めた玉ねぎは鍋に入れ今度は牛肉をバター醤油で炒め玉ねぎと同じく鍋に投入。

 ハヤシライスのベースはワインとトマトとデミグラスだ。

 これを先ほどの鍋に投入してじっくり煮込む。

 コクを出すために最後に豆乳を投入するのも忘れない。

「できた!」

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 今までの試行錯誤が詰まったハヤシライス。

 これが僕たちのオリジナルなハヤシライスだ。

「実食だ!」

 店長に頷き僕たちは実食を行う。

 目の前にはハヤシライス。緊張の面持ちで僕たちは無言で頷きあって口に運ぶ。

「これか……」

 僕は思わず呟く。

「ああ、やっとたどり着いた」

 店長も満面の笑みを浮かべた。

「いいじゃない。美味しいわよ」

 スタッフの女性も賛同する。

「これで残すところは……」

「あの女性に『美味しい』と言わせることだな」

 

☆ 次回、二人の英雄の最後をご覧あれ!!

 

ハヤシライスで世界を救え!! 盛り付け

☆美味しい食事の代償は圧倒的な敗北感であった……

 

「あの味を越すことができると思うか?」 

 店長は言った。

「いや、今の俺じゃとてもじゃないけど無理です」

 僕は言う。

 中村屋のハヤシライス。まさかレトルトのハヤシライスがここまで美味しいとは思わなかった。

 コクがありまろやかでそれでいてしつこくない。

「いや、あんたたちバカでしょ?」

 カフェのアルバイトスタッフの女性だ。

「何も中村屋と競う必要ないでしょ。むしろ同じハヤシライスを世に広める身として同志でもあるじゃない」

「そういうことではないのだ」

 と、店長。

「ああ、そうだ。男には引けないときってもんがあんのよ」

 と、僕。

「俺は俺のハヤシライスを世の中に広めたいんだ!」

 店長は拳を握り立ち上がり高らかに宣言した。

「それは自己顕示欲っていうんですよ〜」

 目が笑っていない微笑みで女性が語りかける。

「ったく。もっと肩の力を抜いていけばいいのに。ハヤシライスを広めることと例の女性に美味しいと言わせることが目的でしょ? だったら他と競わなくても自分たちのオリジナルなハヤシライスを作ればいいじゃない」

 やれやれと言わんばかりの女性。

「自分たちの……」

「オリジナリティ……?」

「そうよ。あんたたちが美味しいって思うハヤシライスを作ればいいのよ。常識的なハヤシライスから外れない限りね」

 そうか。そうだったのか。

「俺たちは大事なものを見失っていた」

「ああ、どうやらそのようだ」

 オリジナリティ。料理人があくなき求めるもの。ハヤシライス探求道もそこに通ずる。

「今までの日々を振り返るのよ。あなたたちならもうきっとできるわ」

 俺たちの……。

「ハヤシライスってやつか」

 

 

ハヤシライスで世界を救え!! 味付け

【ここまでのあらすじ】

 ハヤシライスの地位向上のため。S店長と僕。二人の英雄がハヤシライス作りに挑むこととなった。しかし試作段階初期、知り合いの女性に「美味しくない」の一言を言われ挫折を経験する二人。逆襲に燃える一方、あまりに多い試作のためハヤシライス本来の味を忘れてしまう二人は、ハヤシライスの味を思い出すためにスーパーのレトルト売り場を目指すのだったのだが……。

 

☆ついに強敵(ライバル)登場!? 二人が食品売り場で出会ったものとは……。

 

 スーパーのレトルト食品売り場で店長と僕はハヤシライスを探す。

「これなんかいいんじゃないか?」

 店長が示したのはこちら、

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 中村屋のビーフハヤシであった。

 パッケージからしていかにも美味しそうな雰囲気を醸し出している。

 ゴクリ。僕は思わず冷や汗を掻く。

 レジでなんとかお金を払いものにした僕たちは早速カフェに帰って調理をすることに。

「お湯で温めるだけでできるだと!?」

 あまりの手軽さに恐れおののく二人。

 お湯でパッケージに決められた時間きっかり温めご飯にかける。

 最大限にまで引き上げた敵でなければ本当に勝ったとはいうことができない。抜かりなく調理を終え実食へと移る。

「いくぞ」

 真剣な面持ちでハヤシライスを口にする二人。

 神経に電気が走る。

「なんだこれは!?」

 店長が思わず口にするのも頷ける。

 中村屋(こいつ)かなりできる!!

「これが大資本というやつか!?」

 美味しい。よく考えればそれもそのはずである。賢い研究者たちとその道のプロが集まって作られてのがこのレトルト食品だ。人類の知恵と技術が詰まった作品(ハヤシ)が美味しくないわけなかった。

 思わぬ強敵(ライバル)の出現。

「俺たちは果たしてこのハヤシライスに打ち勝つことができるのか!?」

 強大な壁が僕らの前に立ちはだかるのであった。

 

 

ハヤシライスで世界を救え!! 調理中

「やはりベースを根本的に変える必要があるな」

「デミグラスソースを使えばいいんじゃない? やはりもっと味を濃くする必要がある」

「それだ! トマトベースではなくデミベースにすることで酸味を抑えコクのある味を出すことができる」

「牛肉を炒める時はバターを付け加えないか? そうすればもっとコクが出ることだろう」

「バター醤油が最強だね。ってかもうこれと米出せば一品出せるんじゃね?」

「よしそうと決まれば実際に調理だ!」

「落ち着け。改善案は1つ1つ試していこう。対照実験の要領だ。そうしなければ何がいいかがわからない」

 昼も夜も。

 僕たちは雨にも負けずハヤシライスを作った。

 こうでもないああでもないと日々試行錯誤を重ねる。

 あまりに食べ過ぎてハヤシライスが夢にまで出てくるようになった。

 しかし、彼女に美味しいと言わせるまでハヤシライス作りは終えることができない。

 それにこのままだとまたハヤシライスは脚光をあびることなくカレーの陰に隠れ続けることになる。

 当時の二人を動かしていたもの。

 それは己のプライド以外のなにものでもなかった。

 そんな僕たちにも限界はきた。

 ある日いつものようにハヤシライスを作って試食することになった。

 その時ハヤシライスを食べる店長のスプーンの手が止まる。

「どうしました?」

 僕はクマができているであろう目で店長を見て言った。

「肝心なことに気づいた。ハヤシライスってそもそもどんな味だったっけ?」

 店長の一言で僕は目の前のハヤシライスが盛られた皿を見つめる。

 しまった。僕は愕然とした。

 美味しいものを作ろうとするあまり美味しいハヤシライスを作るという観点がこぼれ落ちていた。つまり「ハヤシライスを作る」という意識よりも「美味しく作ろう」という意識が先行していたため、できた料理が果たしてハヤシライスなのかどうかという観点が完全に抜け落ちていた。

 僕たちはハヤシライスを作っているのだ。

 たとえ出来上がったものが美味しかったとしても顧客がそれをハヤシライスと認めなければそれはハヤシライスではないのだ。

「なんという失態だ」

 灯台下暗しとはまさにこのこと。僕たちは大切なものを見失ってしまっていた。

「急いでハヤシライスとはどんな食べ物だったのかを思い出すんだ」

 店長に頷き僕たちはスーパーのレトルト食品売り場を目指すのだった。

 

 

ハヤシライスで世界を救え!! 調理開始

 ある日のことであった。

 ハヤシライス調理実験初期段階。

「あれ、これうまいんじゃね? 店出せるくね?」

 と、店長と僕はノリに乗っていた。

 そんななか二人の知り合いの女性に試食してもらう。

「正直に言っていいですか? 美味しくないです」

 初の女性の意見ということもあってタジタジになる店長と僕。

 内心若干の焦りを見せつつも女性は淡々と持論を述べていく。

「コクがないし、塩っ気もなくて味が薄いです。酸味だけがただ強くて」

 こうして二人の男はなすすべなく佇んだ。

 ワインとトマト缶をベースにしてしまったせいか味が薄くなってしまったのかもしれない。自然味あふれる味は濃い味に慣れてしまっている今の若者に響かない。

 と、なんとか昇華させてみたがショックを隠すことはできなかった。

「こうなったらあの女性に絶対美味しいって言わせてやる!」

 僕と店長は誓いを立てるのであった。

 こうして二人の逆襲のハヤシライス作りは幕をあけるのだった。