空の上での七並べ

いがもっちの意外かも

ハヤシライスで世界を救え!! 味付け

【ここまでのあらすじ】

 ハヤシライスの地位向上のため。S店長と僕。二人の英雄がハヤシライス作りに挑むこととなった。しかし試作段階初期、知り合いの女性に「美味しくない」の一言を言われ挫折を経験する二人。逆襲に燃える一方、あまりに多い試作のためハヤシライス本来の味を忘れてしまう二人は、ハヤシライスの味を思い出すためにスーパーのレトルト売り場を目指すのだったのだが……。

 

☆ついに強敵(ライバル)登場!? 二人が食品売り場で出会ったものとは……。

 

 スーパーのレトルト食品売り場で店長と僕はハヤシライスを探す。

「これなんかいいんじゃないか?」

 店長が示したのはこちら、

f:id:igamocchi:20160528221542j:plain

 中村屋のビーフハヤシであった。

 パッケージからしていかにも美味しそうな雰囲気を醸し出している。

 ゴクリ。僕は思わず冷や汗を掻く。

 レジでなんとかお金を払いものにした僕たちは早速カフェに帰って調理をすることに。

「お湯で温めるだけでできるだと!?」

 あまりの手軽さに恐れおののく二人。

 お湯でパッケージに決められた時間きっかり温めご飯にかける。

 最大限にまで引き上げた敵でなければ本当に勝ったとはいうことができない。抜かりなく調理を終え実食へと移る。

「いくぞ」

 真剣な面持ちでハヤシライスを口にする二人。

 神経に電気が走る。

「なんだこれは!?」

 店長が思わず口にするのも頷ける。

 中村屋(こいつ)かなりできる!!

「これが大資本というやつか!?」

 美味しい。よく考えればそれもそのはずである。賢い研究者たちとその道のプロが集まって作られてのがこのレトルト食品だ。人類の知恵と技術が詰まった作品(ハヤシ)が美味しくないわけなかった。

 思わぬ強敵(ライバル)の出現。

「俺たちは果たしてこのハヤシライスに打ち勝つことができるのか!?」

 強大な壁が僕らの前に立ちはだかるのであった。

 

 

ハヤシライスで世界を救え!! 調理中

「やはりベースを根本的に変える必要があるな」

「デミグラスソースを使えばいいんじゃない? やはりもっと味を濃くする必要がある」

「それだ! トマトベースではなくデミベースにすることで酸味を抑えコクのある味を出すことができる」

「牛肉を炒める時はバターを付け加えないか? そうすればもっとコクが出ることだろう」

「バター醤油が最強だね。ってかもうこれと米出せば一品出せるんじゃね?」

「よしそうと決まれば実際に調理だ!」

「落ち着け。改善案は1つ1つ試していこう。対照実験の要領だ。そうしなければ何がいいかがわからない」

 昼も夜も。

 僕たちは雨にも負けずハヤシライスを作った。

 こうでもないああでもないと日々試行錯誤を重ねる。

 あまりに食べ過ぎてハヤシライスが夢にまで出てくるようになった。

 しかし、彼女に美味しいと言わせるまでハヤシライス作りは終えることができない。

 それにこのままだとまたハヤシライスは脚光をあびることなくカレーの陰に隠れ続けることになる。

 当時の二人を動かしていたもの。

 それは己のプライド以外のなにものでもなかった。

 そんな僕たちにも限界はきた。

 ある日いつものようにハヤシライスを作って試食することになった。

 その時ハヤシライスを食べる店長のスプーンの手が止まる。

「どうしました?」

 僕はクマができているであろう目で店長を見て言った。

「肝心なことに気づいた。ハヤシライスってそもそもどんな味だったっけ?」

 店長の一言で僕は目の前のハヤシライスが盛られた皿を見つめる。

 しまった。僕は愕然とした。

 美味しいものを作ろうとするあまり美味しいハヤシライスを作るという観点がこぼれ落ちていた。つまり「ハヤシライスを作る」という意識よりも「美味しく作ろう」という意識が先行していたため、できた料理が果たしてハヤシライスなのかどうかという観点が完全に抜け落ちていた。

 僕たちはハヤシライスを作っているのだ。

 たとえ出来上がったものが美味しかったとしても顧客がそれをハヤシライスと認めなければそれはハヤシライスではないのだ。

「なんという失態だ」

 灯台下暗しとはまさにこのこと。僕たちは大切なものを見失ってしまっていた。

「急いでハヤシライスとはどんな食べ物だったのかを思い出すんだ」

 店長に頷き僕たちはスーパーのレトルト食品売り場を目指すのだった。

 

 

ハヤシライスで世界を救え!! 調理開始

 ある日のことであった。

 ハヤシライス調理実験初期段階。

「あれ、これうまいんじゃね? 店出せるくね?」

 と、店長と僕はノリに乗っていた。

 そんななか二人の知り合いの女性に試食してもらう。

「正直に言っていいですか? 美味しくないです」

 初の女性の意見ということもあってタジタジになる店長と僕。

 内心若干の焦りを見せつつも女性は淡々と持論を述べていく。

「コクがないし、塩っ気もなくて味が薄いです。酸味だけがただ強くて」

 こうして二人の男はなすすべなく佇んだ。

 ワインとトマト缶をベースにしてしまったせいか味が薄くなってしまったのかもしれない。自然味あふれる味は濃い味に慣れてしまっている今の若者に響かない。

 と、なんとか昇華させてみたがショックを隠すことはできなかった。

「こうなったらあの女性に絶対美味しいって言わせてやる!」

 僕と店長は誓いを立てるのであった。

 こうして二人の逆襲のハヤシライス作りは幕をあけるのだった。

 

写絵

 水の斑点を様した畦道を歩く。

 停留所の茅葺小屋に女性が独り佇んでいる。

 彼女が身に纏う衣服は私の所持する服だ。

 俯せた顔を伺う。

 それは紛れもなく私の顔だった。

 瓜二つの顔ではあるのだが似て非なる顔。

 ブツブツと面皰だらけの顔はまるで沈殿した泥水の様。

 私を睨む彼女。

 なるべく顔を合わさないように大人しく座っている。

 そこへバスがやってきた。

 女性が乗車し、私も続く。

 対角線の背後から彼女の視線を感じる。

 なんとも居心地が悪い。

 ふと、ちらと見やると女性は消えていた。

 

 それから数年後。

 私がバイト勤務から帰路についていた。

 時刻は真夜中を過ぎている。

 自転車を漕いでいると前から同じく一台の自転車がやってきた。

 すれ違いざまに傍目に写る。

 私の顔だった。

 しばらく経ってはっとなり足を止め振り返った。

 やはり誰もいなかった。

 背筋が凍るでも苦虫を噛み潰すようでもない。

 ただただ蹴鞠玉の風船が宙に浮くかの感覚だ。

 

 社会人になった私はスーツを纏いすっかり都会人になっていた。

 スクランブル交差点を闊歩していた時だった。

 懐かしいあの感覚だ。

 私は、はたと立ち止まり周囲を見渡す。

 行き交う人々の中で微動だにしない私がいた。

 私の方をじっと見つめている。

 全ての時間が止まったかのように私は「私」を見る。

 私は笑みを一つこぼした。